出来そこないの世界でも 1

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 ふう、とため息をつくと垣根のところで自転車のブレーキの音がした。 「よっ、お手紙です」 「わ!」  郵便配達の森さんがいた。ぼくは思わず駆け寄る。 「えーと、これはお父さんからお母さん宛。駅にお母さんが受け取りの荷物が届いているってさ、これ受取切符ね、それから」  じらすように森さんは眼鏡をおしあげ、わざわざ帽子の角度を直してから、鞄の底をゴソゴソ。ようやく薄水色の封筒をぼくに手渡してくれた。 「お待ちかねだな」  差出人の名前なんて見なくても分かっている。お兄さんみたいな森さんに、からかわれたくないから、頬がピクピクするけど、なんともないって顔をする。シャツで指先の土をさっと拭いて受け取った封筒をさりげなく胸ポケットにしまう。 「お父さん、輪番からまだ帰らないのか」 「来週には戻ってくるよ。今回は牧場に行ったから、肉のクーポン、もらってくるって張り切って行った」 「肉か……。つぎはオレも牧場にするかな。でも、海に行って作業するのも気持ちいいんだよな。冬に行くとしんどいけど、まかないは旨いもんが食べられるし」     
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