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出来そこないの世界でも 3
新学期は始まったけど、槇の姿はないままで十日間が過ぎた。
ぼくは区立病院まで行くバスに乗っている。
あれから、みんな口にはしないけど、たぶんいろいろ考えている。
ふだん自虐気味に一日に一回は叫んでいた、『どうせ死ぬんだし』の言葉も耳にしない。みんな信じて疑わなかった。ぼくらは、六十五歳になる四十八年後に全員死ぬんだって。
でも違っていた。気づいたんだ。
死は、その日ではなく……その前、もしかして今日にも訪れるかも知れないことに。
バスが走る幹線ぞいは、家が多くて人の暮らしが感じられる。崩れた廃屋は目にしない。ただ、空き地に太陽光発電のパネルが設営されているのは、家のあたりとあまり違わない。
小さい子を時おり見かけるのは、小学校が区の中心にしかなくて、少ないなりに通う子がいるからだろう。
放課後、担任の伊東から伝えられたのは槇のことだった。
だいぶ良くなった、だから会いに来てほしい……槇からのお願いだった。
「明日は休んでいいから、顔を見てきてくれないか」
そういって、バスの乗車券をくれた。
区立病院までは、駅からバスで一時間くらいかかる。
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