出来そこないの世界でも 1

1/10
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ

出来そこないの世界でも 1

 学校から帰ると、縁側を見る癖がぬけない。  前庭に作られた小さな家庭菜園と鶏小屋。庭に面した和室からすぐに出られるようにつくられた、深い軒下の縁側はおじいちゃんの定位置だったから。 「ただいま」  ぼくが赤い扉をあけて玄関に鞄をおろすと、母さんが台所からフワフワの天パの頭と丸い眼鏡の顔だけ、ひょいとのぞかせた。 「おかえり、拓海(たくみ)。あがる前に、二十日大根と青紫蘇、採ってきて」  有無をいわさずぼくに命じると、竹のザルを左手で器用に投げてきた。  ジャストで受け取ると庭へと回れ右だ。  菜園の土から赤く食べごろになっている二十日大根を抜く。葉っぱが青虫に食べられてボロボロだ。おのれ、畑のうえを優雅に舞うモンシロチョウどもめ! それから、青紫蘇。指で茎をちぎると、すうっと涼しい香りがする。まだ蒸し暑い夏の夕暮れ時に、ここだけ爽やかな風が吹く。  サヤインゲン、枝豆、トマト、茄子にピーマン。狭い畑には少しずつ何種類も野菜が植えられている。  夏が一番、好きだなあ。  声が聞こえたような気がして縁側を振り返る。  縁側が空っぽになって、もう四年だ。じいちゃんは、ぼくが十三才のときに亡くなった。     
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!