常識をどこに忘れましたか

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「……失礼しました。とても、素晴らしい作家だと思います」 「別に隠さなくてもいいのに」 ふふっと笑い声が聞こえて、思わず隣を見上げてしまった。 力強い太陽の光が、口に拳を当て、目を細めて笑う天沢さんを照らし、キラキラと輝かせている。 ただでさえ輝いている人が、太陽の光を纏ってはいけない。 強烈な化学反応を起こして、凶器と化す。 思わずすれ違う人の後を追って、逃げようかと思ってしまった。 それを寸でのところで堪え、首が千切れるかと怖くなる勢いで正面を向いた。 「どちらのドーナツがお好みだとかありますか?」 「そうだね。約束の時間には余裕を持って出てきたし、先生が一番好きな店に寄っていこうか」 そう言った後、また小さな笑いが聞こえた気がするけど、気付かなかったフリをした。 こうして、私達はドーナツ屋を経由して、鏑木郁先生宅へと向かうことにした。
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