常識をどこに忘れましたか

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「何も入ってないよ。その音の中に入ってみたかったの」 ごめんなさい。理解は不可能かもしれません。 「郁は、共感覚を持っているんだよ」 天沢さんが、ようやく助けてくれる気になったらしい。 私の前に座っている郁は、小さく鼻歌を歌いながら身体を揺らし始めた。 機嫌が良さそうで、何よりだ。 「共感覚って、何ですか?」 「ある刺激に対して、通常の感覚だけじゃなくて、異なる種類の感覚も生じる特殊な知覚現象のこと。郁は、光を見ると同時に音も聞こえるらしい。人によっては音に色が見えたり、匂いに手触りを感じたり、その人その人で感覚が違うんだ。大人まで、その感覚が残っているのは、珍しいんだよ」 「凄いですね」 「僕には、皆がどう感じているかが分からないよ。音が聞こえないなんて、変な感じ」 「というように、その人にとっては当たり前の感覚みたいだね」
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