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「なんでこのゴミ捨て場で煙草吸うわけ?ゴミに引火したらどうすんよ。」
ある日、俺は初めて会ったときから気になっていたことを聞いた。
家とかコンビニとかもっといい場所があるだろう。
そう尋ねると盾兵が顔を顰めながら押し黙った。
こいつ、聞かれたくないことに対してはこういう顔になるんだよな、と思いながら
返事を待っていると
「……向こうの木、見てた。」
そういいながら盾兵が顎をしゃくった。
このゴミ捨て場は俺たちが住んでいるアパートとは別のマンションの前にあるのだが、
そのマンション内の庭に一本の枯れた木が立っている。それを見ていたというのだろうか。
「別にただの枯れた木じゃねえか。」
「……桜の木、なんだよあれ。」
こいつは無口・・・というか話すテンポが独特だが、辛抱強く待つとちゃんと自分の思ったことを言ってくれる。今回も黙って待っていると
「1年前この辺に来た時あの桜の木が見えて。綺麗・・・だなと思った。」
だからこの辺に引っ越してきたのか、とか。
そんな理由で、とか思ったが。
きっと、こいつにとってそれは重要なことなんだろう。
「……そうなんか。俺この辺引っ越してきてだいぶたつけど全然気づかなかったわ。
…‥俺も見てえな、桜。お前が言うんだから綺麗なんだろな。」
仕事がずっと忙しくて、精神が参ってきてて、周りがなにも見えていなかったんだなと最近思う。
こいつと話して、なんだが、生きているって気持ちになってきて。
俺もこいつの綺麗だと思うものが見たいと思うようになっていた。
盾兵はなにも言わずに煙草の煙を吐いた。
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