がらくたと屑

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「……殴られた。それだけだ。」 「喧嘩か?」 そう思い盾兵の手をみるが、相手を殴ったにしては盾兵の拳は綺麗なままだった。 こいつの性格上、やられっぱなしで終わるわけないと俺は確信している。 だがこいつはそれ以上なにもいわずただ黙っている。 言いたくない、と言外に匂わしているが俺はそれを無視した。 喧嘩なら、それを肯定するだろう。だが言いたくないってことは。 「一方的に誰かに殴られたってわけか?反撃せずに。……殴りたくない誰かに。」 そう告げると盾兵は腕を掴んでいた俺の手を叩き落した。 今までのは本気じゃなかったんだなってわかるほどの強い力だった。 「痛ってえ!!」 俺がそう叫ぶとあいつはちょっとびっくりしたような顔をした。 俺は手をさすりながら、盾兵に話しかける。 「誰かに話すだけで、聞いてもらえるだけで楽になるもんだぜ?言えよ。」 俺がそうだったように。 俺が盾兵に話を聞いてもらえて、楽になったように。 盾兵は黙っていると、尻のポケットから煙草を取り出して、ライターで火をつけた。 深く煙を吸い込み、吐いた。 やがて盾兵がぽつりぽつりと話し始めた。 「……レジで金が盗まれて。俺のせいだって言われた。違うっていったんだけどな。」 そりゃそうだろう。こいつがレジの金を盗むわけがない。 ゴミ捨てのルールを守り、携帯灰皿をもって、そして俺の話を聞いてくれる優しいこいつが。 「そしたら店長に殴られて。……そのあと別のやつが盗んだってわかって終わった。」 「……なんでお前が疑われるんだよ。」 「……見た目だろ。俺屑だし。」 さも当たり前かのようにいったこいつに腹が立って、俺はこいつの胸倉をつかんだ。 その拍子に、盾兵が手に持っていた煙草が落ちる。 「自分でいうな、そんなこと。」 「事実だろ。喧嘩は今でもするし、別に。人生捨ててるような屑だ。」 頭に血が上ってこいつを渾身の右ストレートで殴ろうとしたら、ひょいっとかわされ 逆に平手打ちをくらった。 一瞬意識が飛びかけるが、すぐに取り戻す。 久しぶりだな、この感覚。昔、といっても数年前だかを思い出す。 「俺は殴るのかよテメー。」 「べつに痛くねえだろ。パーで殴っただけじゃねえか。」 手加減はしてるんだろなという感じはあった。 本気で殴られたらこうして立ってはいられないだろう。 「……それ、店長にいわれたのか」
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