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「おせんちゃん……」
おせんが長屋の入り口の木戸の脇に隠れて、堪えても堪えても湧き上がってくる涙を拭っていると、背後から太く優しい声が掛けられた。
「お父ちゃんなんか嫌い……それに、あんなガンニンさんも」
「おせんちゃん、おとっつぁんを嫌っちゃいけないよ」
「だって、あんな」
「おとっつぁんもつらいのさ、つらいときは自分がまだここにいるんだって確かめたくなる。確かめかたは人それぞれだけど、そんなときはつい人を責めちまったりするんだよ。そうじゃないかい、おせんちゃん」
「……うん、そりゃあそうだけども」
「誰かを憎んでも、寂しくなるばっかりだよ。人を憎む心には、誰も本気で寄り添ってくれやしないんだから」
ガンニンの言葉はよく分からなかったが、おせんの心に染み入るものがあった。
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