4/4
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「おせんちゃん……」  おせんが長屋の入り口の木戸の脇に隠れて、堪えても堪えても湧き上がってくる涙を拭っていると、背後から太く優しい声が掛けられた。 「お父ちゃんなんか嫌い……それに、あんなガンニンさんも」 「おせんちゃん、おとっつぁんを嫌っちゃいけないよ」 「だって、あんな」 「おとっつぁんもつらいのさ、つらいときは自分がまだここにいるんだって確かめたくなる。確かめかたは人それぞれだけど、そんなときはつい人を責めちまったりするんだよ。そうじゃないかい、おせんちゃん」 「……うん、そりゃあそうだけども」 「誰かを憎んでも、寂しくなるばっかりだよ。人を憎む心には、誰も本気で寄り添ってくれやしないんだから」  ガンニンの言葉はよく分からなかったが、おせんの心に染み入るものがあった。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!