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「私はそのとき、若旦那様に命じられて、不躾ながら、おせんさんのことを調べさせていただきました」  佐吉はおせんの家を眺めまわした。 「千住の宿の宿屋で待つ若旦那様のところに戻った私は、正直なところ、お止しになったほうがよろしいと申し上げました。ところが、普段は強くものを仰らない若旦那様にこっぴどく叱られてしまいまして。  翌日日本橋の家に帰り大旦那様も交えて相談いたしましたが……若旦那様は終いには家を出るとまで仰る始末。  これまで縁談に見向きもしないことを心配されていたこともあるので、やむなく『それなら、まずは奉公人として抱えてみよう』ということになったのです」  先ほどから口を開けたままへたり込んでいるお美代はもちろん、おせんも声を失った。 「ご異存がなければ、明日、改めてお迎えに上がります」  佐吉は異存などあろうはずがない、といった口調で言うと去っていった。 「お、おせん、夢じゃないよね」  佐吉が出て行ってからだいぶたってから、お美代はようやくそう呟いた。おせんは震える母親の手を取ると頷いた。
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