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「ガンニンさん」
ガンニンの部屋の戸を勢いよく開け放ち、おせんは中に飛び込んだ。
「あ、あたし、大店の若旦那に、み、見初められたんだって。で、まずは奉公からって……あたし、働けるんだよ」
「何だって、そりゃあよかった」
「ど、どうしよう」
「どうしようも、こうしようもないだろ。玉の輿かもしれないじゃないか。おめでとう」
ガンニンは自分ことのように喜び、勢いよく立ち上がった。頭が天井を破りそうになり、床板がミシリと苦し気に鳴った。がさごそとガラクタをかけ分けたガンニンは片方の扉が取れた神棚の前に四角く座り直すと、ぽんぽんと柏手を打った。そして神棚の中から小さな桐の箱を取り出し、おせんに渡した。
「お祝いだよ、開けてごらん」
きっちりと蓋の嵌った箱を開けると、中には櫛が入っていた。
「鼈甲の櫛だよ」
おせんにはその価値は分からなかったが、大層綺麗なものである。貴重なものだろうということは容易に想像できた。
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