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「相変わらずねえ。ホントどう見ても要らなそうなものばっかり……」    おせんは部屋を見まわすと、腰に手を当ててため息をついた。長屋の部屋いっぱいに、所狭しと物が置いてある。扉の取れた神棚、欠けた木魚、タガの緩んだ飯台、一抱えもありそうな達磨、他にも得体の知れないものが今にも崩れ落ちそうにうず高く積み上げてある。その間に、大男のガンニンがなんとか眠れそうな分だけ畳が見えた。 「うーん、なかなか捨てられなくってな」  ガンニンは少し毛が伸び始めた無精な坊主頭を掻く。  ガンニンの本名をおせんは知らない。ただ、男が願人坊主をやっているからガンニンさんと呼んでいた。  願人坊主は大道で踊りを踊ったり、家々を尋ねては、その家の人の代わりに願掛けの水垢離をやって見せたりすることで小銭を稼ぐ、いわば大道芸人だ。 「そんなことより、お仕事はいいの」    おせんが言った。  晴れた日こそが願人坊主のような大道芸人の稼ぎどきなのだ。ここのところ米所では凶作が続いていると聞いている。ただでさえも人々の財布の紐は堅いので、稼げるときに稼いでおかないと釜の蓋が開かなくなる。とは言え、おせんの家も人の心配をしている場合ではないのだが。 「正月が過ぎてからはさっぱりでな……まあ、おせんちゃんに言われたんでは致し方ない」    大男のガンニンは今年十六になったばかりの小娘のおせんに言われて、文字通り重い腰を上げた。
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