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1つ目。
スヤスヤと眠る我が子を温かい眼差しで見守る私の母。
1夜限りの過ちで、行きずりの男との性行により出来た我が子。まだ一年にも満たない。
「堕ろしなさい!」
私が妊娠を告げると世間体を重んじる母は開口1番にそう怒鳴った。
私は頑なに拒否を続けた。その時は自身にしか感じられない母性。それ1点のみの理由で。
やがて産まれてきた我が子と初めて対面した分娩室にて泣きながらこの子を抱き締めた。
一応、母に連絡した。産んだ。と。
初めは口汚く罵り、娘である私を畜生呼ばわりしていた。絶縁もされた。
しかし、絶縁後に父が亡くなり同居中の兄嫁に煙たがられていた母は私に連絡を寄越した。
正直女手1つでこの子を育てられなかった私は押し切る母の言葉にやむを得ず了承し、母の待つ実家に住む事になった。土地家屋は母の名義であり姉嫁との確執を理由に母は兄夫婦を追い出した。
生活は楽になったが、昔から何かと兄と比べて蔑ろにされて来た実家に住むのは苦痛が、無かったと言えば嘘になる。それでもこの子の事を考えると耐えきれた。
母は昔から実の娘でありながら、女である私を目の敵にしていた。同じ女として見ていた。だから折檻をよくされた。それを見兼ねた父と兄が止めに入ると嫉妬と憎悪の眼差しで睨んでいたのを覚えている。母であり女であった。私は母を嫌悪していた。
そんな恐ろしい母が私の子を愛おしい眼差しで見つめている。私はそれが憎くて堪らなかった。あの日の母と同じになっていた。産まれたのは息子だったから。
ふと恐ろしい疑問が湧いてくる。
「息子を殺すと母はどんな顔をするんだろう?無理矢理追い出した兄夫婦とは既に犬猿の仲で疎遠である。私は息子殺しとして世間の晒し者にされ、然るべき場所へ収監されるだろう。すると母は…この女は独りぼっちになり世間から好奇の目で見られ他人に一生怯えながら生きていくのだろうか?残り老い先短い人生を」
ここまで考えて、無意識に頬が緩むのが感じられた。
この考えを捨てようと思った。しかし、それ以上にこの考えを行った後の状況への気分の高揚は捨てきれなかった。
息子を見つめる母に私は言った。
「お母さん、ごめんね。やっぱり無理だったよ」
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