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母は昔から実の娘でありながら、女である私を目の敵にしていた。同じ女として見ていた。だから折檻をよくされた。それを見兼ねた父と兄が止めに入ると嫉妬と憎悪の眼差しで睨んでいたのを覚えている。母であり女であった。私は母を嫌悪していた。
そんな恐ろしい母が私の子を愛おしい眼差しで見つめている。私はそれが憎くて堪らなかった。あの日の母と同じになっていた。産まれたのは息子だったから。
ふと恐ろしい疑問が湧いてくる。
「息子を殺すと母はどんな顔をするんだろう?無理矢理追い出した兄夫婦とは既に犬猿の仲で疎遠である。私は息子殺しとして世間の晒し者にされ、然るべき場所へ収監されるだろう。すると母は…この女は独りぼっちになり世間から好奇の目で見られ他人に一生怯えながら生きていくのだろうか?残り老い先短い人生を」
ここまで考えて、無意識に頬が緩むのが感じられた。
この考えを捨てようと思った。しかし、それ以上にこの考えを行った後の状況への気分の高揚は捨てきれなかった。
息子を見つめる母に私は言った。
「お母さん、ごめんね。やっぱり無理だったよ」
スヤスヤと眠る我が子を温かい眼差しで見守る私の母。
1夜限りの過ちで、行きずりの男との性行により出来た我が子。まだ一年にも満たない。
「堕ろしなさい!」
私が妊娠を告げると世間体を重んじる母は開口1番にそう怒鳴った。
私は頑なに拒否を続けた。その時は自身にしか感じられない母性。それ1点のみの理由で。
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