第四章

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 家に行くのは……その、もうちょっと気持ちが固まってからでもいいだろう。そう思っていた。  今までずっと男として生きてきて、恋愛対象は女性だった。下田代のことは嫌いじゃないし、彼に触れられて気持ちがいいのも事実だ。でも、そのことをどう整理したらいいのかはいまだにわからない。  今度彼の家に行ったらきっと、俺の人生は変わってしまう。  それがいつのことになるかはまだ、わからないけれど。  そんな風にもの思いしながら仕事をしていたせいか、進みは悪く、実際忙しいのになかなか片付かなかった。夜十時を過ぎて、同僚たちの姿も少なくなってくる。 「なぁ今日ちょっと飲み行かないか? 疲れただろ?」  そんな風にふらっと現れた同期に誘われた。下田代は研究室に泊まると言っていた。だから彼の家に行くかどうか、俺はまだ悩まなくてもいい。  同期との飲み会は職場の愚痴と女の話ばかりだが、とても気楽だ。実はないけれど、俺はこういうだらっとした何でもない飲み会が結構好きだった。
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