第四章

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 余ったら夕飯か明日の朝食にでもしようと思っていた分だ。 「俺ねぇ、クリームパンが好きなんすよ」 「知ってる」  ビニール袋の中からパンを取りだした下田代は固まっていた。  たまたま、俺が買っていたそのパンは、クリームパンだった。もちろん下田代がここに来るとわかっていたわけではない。ただ、懐かしくなって買ったのだった。  八年前にも、そのパン屋はあったし、俺は昼を食べるときにはだいたいそこで買っていた。食うか、と小さかったころの下田代に聞いたら、冷たい目で「知らない人にパンはもらえない」と言われたのだ。  下田代は戸惑ったように、俺が渡したクリームパンを見ていた。 「今は知らない人じゃないんだからいいだろ」  そのときにまだ幼い彼に、何のパンが好きかを聞いた。プリンにクリームパン、下田代が好きなものの系統が何となく見えてくる。意外に甘党だ。  下田代は、なかなかパンを食べようとしなかった。 「古津さん、たらしすよね」 「どこがだよ」
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