痛い

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もしもね、ぼくがピアノの発表会で一等賞をとったら、レイちゃんの お手せいの花束を作ってくれる?  数ヶ月前に植えた夏野菜の花が、実へと変化し始めた頃。 小学校中学年くらいの時だっただろうか。 ピアノを習っていた彼は八月に開催されるピアノのコンクールに出場することになっていた。演奏を聴かせて貰う為に、当時は何度も彼の家へ足を運んでいた。もちろん私は快諾した。しかし、その返事を意味する眩しい笑顔を、コンクールの当日、目にすることはなかった。  普段から人前に立つことに慣れていない彼の精神が緊張を呼び寄せ、腹部へ「絶対に演奏するなっ」と強く訴えたのだ。本番直前に彼は卒倒し、救急車で搬送された。もちろん、彼は一等賞をとらなかったので私から花束は渡さなかった。ただ、両親の付き添いとして見舞いに行った際、持っていた折り紙で簡単な花を作った。約束を守れなかったことに対して謝罪する彼に、私は何故か怒れてしまい、作った折り紙を彼に投げつけた。後で両親にキツく叱られた。怒られたことに納得がいかないまま病院を出ると、私たちと同じように見舞いに来たのだろう人たちが、入院費が云々と大人の悩み事を零していた。今の私の気持ちをわかってくれる人なんていない。  何処か冷めた私の気持ちを他所に、空は透き通った青が支配していた。
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