隠した本音

2/2
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 もしも今から四つ葉のクローバーを見つけれたら、家へ帰るまでに泣き止んでくれる?  小学校の卒業と同時に遠方へ引っ越すことになった。理由は「両親及び親戚の仕事の都合」とだけ此処に記しておく。親しかった友達と一緒に同じ中学に通うことが出来ないことを思うと悲しくて、卒業式の最中、涙を堪えることが出来なかった。私だけ仲間外れになってしまった。一人でいることは好んでいたが、確実に存在する自分の居場所から離れなければならない。私を私足らしめ、認識してくれた人たちとお別れしなければならない。離れた途端に忘れられてしまうのではないかと危惧し、心細かった。誰も知り合いのいない新天地で生活することを想像するだけで怖くて仕方がなかった。ずっと昔の皮肉なまでの青空をもう一度見たいと願うくらい、心は不安に侵食された。  二、三年に一度の降雪があるかないかという私たちの住む街で、三度も積雪するほどの大寒波が襲ったその年に、春の来迎の証明を見つけることは容易くなかった。 あえて高い壁を選択し、我武者羅に体当たりだけをかますような性格じゃないことは、彼自身がよく知っていたはずだ。それでも、彼は川辺にわずかに群がる白詰草の中へ飛び込んだ。ずうっと昔の麗らかな春の日のこと。今よりも、もっと小さな手でシロツメクサの花かんむりを作った場所だった。その変異体が生まれやすいのは水辺や日陰の場所、人に踏まれやすい場所であると経験上知っているため、彼の探す場所は決して見当違いではない。  ……とは言ったって、そもそも私は先ほどの質問にちゃんと答えていなかった。ウンともスンとも何とも言わなかった。ただ膝を抱えて、しゃくり声をあげながら、将来ピアノを弾くためにある指を泥で汚す男子の様子を見つめていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!