ませガキめ

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 もしも今度の定期試験で俺が麗華よりも合計点が高かったら、ラインのID聞いてもいいか?  臆病者め。  連日続く寒気に体を縮こませていた冬の日にそれは届いた。手紙を一読した私がこう呟くのも無理は無いだろう。 互いに別の進路を歩み続ける最中、私たちは文を通して連絡を取っていた。小学校を卒業した当時はお互いに携帯電話を持っていなかった為、アナログな方法で連絡を取るしか出来なかった。しかし、いつのまにかお互いに携帯を既に所持しているということが最近の手紙のやりとりで判明した為、手っ取り早く連絡を取るにもアプリでのチャット形式の方が良いかもしれないと思っていた頃だった。彼特有の手書き文字が読めなくなるのは少し寂しい気もするが、時代柄に合わせた交流も良いと思うのだ。近所の長老様方は「昔と違い、今の若者は何でもかんでも短絡的に物事を済ませようとする」なんて文句垂れていたが、文明の利器に頼って何が悪いのだ。伸ばせば手に届くものを利用しない方が馬鹿の極みだ。……もちろん長老様方を馬鹿にする訳ではない、が。とはいえ、手書きの文字の方が気持ちは伝わりやすいという言葉も間違いではないだろう。  「俺」の下に書かれた「僕」の跡。  「麗華」の下に書かれた「レイ」の跡。  手紙の右端が少し縒れているのは、ずっと其処に鉛筆を持った手を置いていたからだろう。  どんな文章を書くべきか散々悩んだ痕跡を辿れば、アイツがどんな気持ちでこの手紙を書いていたのか想像するのは容易だ。  そんな緊張感の中で勇気を出したこと自体は賞賛に値する。しかし、そもそも仮定条件がおかしい。今度の定期試験と言っても、お互いの中学の教科書も内容も進度も違う為、公平な勝負とは到底言えない。私は、中学一年生最後の定期テストの結果を確かめる前に、ラインのIDと携帯のメールアドレスを記入した手紙をポストに投函した。
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