ひき逃げ 180913

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ひき逃げ 180913

真っ暗な山道に白いガードレールだけが見えている。対向車は無い。メルセデスの白い車体がかなりのスピードで右カーブに入っていく。男は少し歯を食いしばると両腕を伸ばしてハンドルを強く握り、背中を運転席に押し付けた。メルセデスを右カーブから外側へ外していく。ガツ、ガツ、ガツ。左前方からガードレールに接触。荒い振動が伝わる。ブレーキはかけない。ガツガツガツ。ガードレールに左側から突っ込む形でメルセデスが横滑りし、停車した。男は運転席から降りると、車の前方に回る。スポイラーが潰れ、左ヘッドライトとフォグランプが潰れている。一方、右のライトは点灯しており、エンジンもかかったままだ。損傷はラジエターまでは達していない。上出来だ。続いて助手席の扉を開け、フロントガラスに装着されていたカメラ型のドライブレコーダーを取り外した。窓枠に這わせてあった配線も丁寧に取り外す。まとめて、車両後輪のすぐ後ろのアスファルト上に置く。男は運転席に乗り込むとギアをバックに入れ、メルセデスをゆっくり動かした。ゴリ。振動が伝わって、カメラが1.8トンの車体に踏まれた事を伝えた。男は再び車から降り、確認に向かう。しかし思った程潰れていない。男は舌打ちするとカメラを取り上げ、中から68GのSDカードを取り出し、再びアスファルトの上に並べて置いた。左手に持ったスマホのライトで路上を照らしながら、右手に持った大き目の石を振り落とした。ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ。5回。石の下でカメラとSDカードが黒い破片と化す。残さずハンカチの上に拾い上げると、こぼれないように丁寧に包む。これで山中の作業は終わった。何回か切り返してターンさせると、男はメルセデスを街に向かって走らせた。
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