序章・空の翳り

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 僕の運命は一週間前に起こった事件から一変してしまった。  その日の真夜中、黒い雲が船の櫂のような翼を生やして、ゆっくりと地表を覗きながら集まり、森に囲まれた緑の庭の中にぽつんとある木造の一軒家を見つけ出した。  僕はその異様な空気に目を覚まし、ベッドから起き出して、生暖かい風が窓ガラスを叩き、砂埃が霧のように漂っているの眺めて震えた。  黒い雲の鳥が空の隙間を無くし、夜は完全に闇の中に閉ざされてゆく。  そして地の下で蠢く者が庭の花壇や木々を次々と薙ぎ倒し、僕の家へ迫って来た。地表に巨大なひび割れを作り、唸りを上げながら襲いかかる。  僕は呆然として、土の津波にあったように揺れる部屋の中で助けを求めた。階段を上って来る母と父の呼び声が聴こえたが、それはすぐに悲鳴に変わった。  家中の電灯が瞬いて消え、壁と床がひび割れて身動きができない。  母は壊れた階段に足を取られて倒れ、父が手を伸ばしたが闇の割れ目に落ちて行く。その時、「ユウヒー」と母が最後に叫んだが、家が真っ二つに割れる轟音と衝撃でかき消された。  二階の部屋も歪んで天井も床板も折れ曲り、僕も父と母に助けを求めながらその深い割れ目に呑み込まれた。 「お母さん。お父さんー」  しかし僕はその時、何か光る者にパジャマの襟首を掴まれて宙に浮いたんだ。
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