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父からのメッセージ
木製の分厚い天板に何かが映り込み、まるで透明な液晶ガラスの向こうで、誰かが文字を書いているみたいだ。
その上半身の男の顔は影になりハッキリとは見えてないが、遊飛はその輪郭だけですぐに誰か分かった。
「お父さん!?」
父はその声に応えることもなく、デスクの裏から何かを必死に書いていた。そのペンと腕だけがハッキリと見える。
「さっきからこの現象が繰り返されているんだ」
佳乃子が遊飛に説明するように呟いた。伯母さんには文字しか見えてないのか、遊飛と夫の顔を交互に見つめて、もっと詳しい説明を和樹に求めた。
「私には文字しか見えませんが、もしかして遊飛のお父さまが書いていらっしゃるのですか?」
それはウィンブルドンの試合に勝ったテニスプレイヤーがクリアボードにサインしているみたいだった。しかも急いでいるのか、裏から図形と文字がスラスラと描かれている。
「何か新しい情報があるかと、ずっと観察していたのだが。もう遊飛くんのお父さんは此処には居ないと考えた方がいいだろう」
「たぶん、これも数時間前に残したメッセージだと思う」
「じゃ、父はいまどこにいるんだ?それにこの文字の意味は何だ?」
遊飛がそう聞いたが、それは虚しく壁の本棚まで響き、佳乃子の哀しげな眼差しが遊飛をチラッと見ただけであった。
博識な伯父、和樹もそれには答えられない。
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