不思議なトレーニング

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不思議なトレーニング

 簡素な住宅街にある鳥居家の邸宅は自然公園に面していて、暫し目を凝らしていれば小鳥やリスが樹木の枝葉に見え隠れしている。  その二階の小窓から一本の羽根が糸に吊られたように横になって宙をゆっくりと飛んで行く。  ドングリを齧っていたリスがチラっとそれに気付いて巣穴に逃げ、蝶々が不思議そうにフワフワと羽根の周辺を舞うのを遊飛はつまらなさそうに眺めていた。  それは根元を先にして十メートル程離れたモミの木でUターンして戻って来る。  遊飛は窓際のライティングデスクに座って肩肘を付き、その隣には羽根を見つめる佳乃子が窓から顔出して立っていた。  あれから七年が経ち、佳乃子が17歳のメガネ美女。遊飛は14歳の逞しい少年になっていた。  羽根は佳乃子が前に出した手のひらにすーっと着地し、もう一方の手で摘んで遊飛に自慢する。 「どう?」 「どうって?」 「見事なフライトだったでしょ?」  そう言ってメガネの中の瞳をキラキラさせて微笑んでいる。遊飛は眩しそうにカーテンを少し閉めて、窓ガラスの午後の日差し遮った。 「無風だからな」 「なによ。ケチつけるの?」 「だって、それは僕の羽根だ。唯一、父が僕に残してくれた物だよな」  遊飛はさっきまでライティングデスクで分厚い本を読んでいたが、溜息をついてバタンと閉じてしまう。その革張りの本のタイトルは[(ソウル)(バード)・基本篇]。
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