生きる

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生きる

「……明日、情報解禁されるよ」  つぶやくように言う福島の顔は、さすがに憔悴していた。両手で顔をこすり、大きく肩で息をつく。  アズマはなにも言えず、ただ静かに福島を抱きしめた。痛いほどの抱擁が返ってきて、福島の腕と胸に深く包みこまれる。  坂上は精神のバランスを崩し、入院した。ソロツアーは中止となり、福島はマスコミから逃れるためにもアズマの部屋に来た。  明日になれば、坂上の緊急入院とツアー中止のニュースが流れると同時に、世間は理由を探ろうとし、好き勝手に語るだろう。誰とも知れない「関係者」の話として、事実に近いことも暴露されるかも知れない。  拓の人生を壊してしまった。  アズマの身体は小刻みに震えた。福島の肩に顔を埋めようとして、勢いよく身体を起こす。  自分達がこんな時に、寄り添っていていいのか。坂上の人生をめちゃくちゃにした罰を受けなければならないのではないか。 「大丈夫、俺が全部悪いことにするから」  こわばったアズマの表情を見て、そう言って微笑む福島は少し顔色が悪い。アズマを抱き直し、優しく背中を撫でる。 「大丈夫じゃない……! 悪いのは俺だろ? ずっと健介とも拓とも寝て、拓に本当のこと言って追い詰めて、俺が性欲も倫理観もいかれた男だったから、こんなことになったんじゃないか!」  思わず大声でまくし立てたアズマの瞳から、こぼれ落ちる涙。よれよれの部屋着姿で、怒らせた肩をがくりと落とす。 「きれいだよね、アズマさんは」  福島はささやくように言い、アズマの顔を両手で包んでまっすぐに見つめた。  以前、坂上にも同じことを言われた。その時の坂上の顔を思い出し、アズマは胸がずくずくとうずくのを感じた。同じ言葉でも、坂上と福島が自分に向ける視線や想いは、あまりに違う。 「いかれた男だった、って過去形になったんなら、それでよくない?」  少し首をかしげ、顔を包みこんだ両手の指先で愛しそうに耳や髪に触れる福島を、アズマは呆然と見つめた。  なぜ福島は、こんな自分を許してくれるのか。  ほろり、ほろりと大きな瞳から涙がこぼれ、長いまつげを濡らす。白い頬をつたう涙を、福島が親指で拭う。泣くアズマに見とれているようでもある、福島の柔らかな表情。
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