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その次の金曜日だ。
僕は会社の飲み会だった。
終電で帰ると部屋はもう暗くて、健太郎も奈緒美ももう寝ていた。
僕はまず子供部屋を開けスヤスヤ眠る健太郎の寝顔を見に行き、次に寝室で眠る奈緒美のベッドに行った。
「ただいま」
声をかけてみたが返事がない。
薄明りの毛布の隙間から、白い膝が見えている。
きれいだ。そう思って、僕はそのまま、背広のまま、引き寄せられるようにその膝に口を付けていった。
うーん。奈緒美が寝返りを打つ。
やさしく、やさしく。
毛布の中の奈緒美は短パンだ。白い足。きれい。その足の間に、やさしく口づけしていく。
うーん。奈緒美が目を覚ました。
僕はイチかバチかの行動に出る。お願い、のポーズ。
奈緒美が笑う。よかった。奈緒美。なんていい女なんだ君は。
ついてはまず、僕が背広を脱がないと。あたふたしていると、「ちょっと待って」と、ひと際小さな声で奈緒美が言う。
「あっち、あっち」隣の部屋を指差す。
「あっちって、子供部屋? なんで?」
奈緒美は電話を気にしていた。ベッドが音を立てて、そのせいで寺田さんが電話をかけてくると思ったのだ。だから僕達は子供部屋に行った。そして防音マット+毛足の長い絨毯の上で交わった。健太郎の方をなるべく見ないようにして。そして、愛撫も挿入もお互いこれ以上ないくらいに音を立てないように気を遣った。
どうしてここまでして、と思わなくもなかった。でも、そんな中だったけれど、奈緒美が積極的になってくれていた。それだけが救いだった。いつもより懸命に僕に尽くしてくれているみたいだった。
やがて僕は、こういうのもいいかも、という楽天的な気持ちになってきた。そして、奈緒美の中で思いを果たした。ああ、幸せだ。僕はなんて幸せなんだろう。と思った瞬間。
鳴った。
電話。
居間の電話。
一瞬、僕の背中に回された奈緒美の腕が縮み込み、凍りついたように息が止まった。
なぜだ。なぜ。なぜわかる。なぜきこえる。
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