顛 落(てんらく)

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 早紀の様子がおかしくなったのはそれから1カ月後くらいだった。  パートの終わる時間になっても帰って来ない。芽衣のお迎えを母さんに頼むことが多くなった。何でも役職が付いたそうだ。それで忙しくなって仕事を処理しきれないことが増えたのだとか。  仕事をしている時間がストレスの発散になっているようだから、俺もそれには目を瞑っていた。そんな状態が1年続いたある日、妙なことを聞いたんだ。 「及川さん、奥さんは何の仕事をしているんですか?」  営業課の後輩が聞いて来た。 「何って、印刷会社で事務のパートしているんだよ。何で?」  この時は何も想像できなかった。 「あ、そうですか・・・う~ん・・・」 「何だよ、嫁に会ったのか?」 「いや、ちょっと、言いづらいんですけど・・・」 「何だよ、いいよ。言えよ」  後輩はもぞもぞとして顔を引きつらせた。 「あのう、外回りしている時に、2度車に乗っている奥さんを見たんで・・・」 「うん、で?」 「それが、同じ男性と一緒なんですよ。奥さんは助手席で」 「まぁ・・・そういうこともあるんじゃないの?」  無いと思った。ずっとデスクワークだと聞いていたから。 「そのぅ・・・場所が4丁目の河川のあたりなんです・・・時間は4時過ぎくらいなんですが・・・」  そこはホテル街近くだった。うちの商品はホテルにも卸している都合上、営業の連中はホテルにも顔を出している。 「そうか・・・あ、ありがとな。それとなく聞いてみるよ・・・」  と平静を装ったものの、後輩にはどんな顔をしていただろうか。
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