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それからは早紀と顔を合わすことがぎこちなくなった。その俺の仕草の不自然さを悟られなければいいがと思ったが、そんなのも眼中に無かったようだ。こっちの方が早紀の不自然さが目に余るくらいだからだ。
妙になれなれしく話す。それに口数が多くなった。聞いてもいないのに仕事の愚痴を言うようになった。
「じゃあ、辞めてもいいんだぜ」
と言うと、
「自分が始めたことだから、ちゃんと続けます」
などと甲斐甲斐しく返す。
理由が分かってからは、その全ての言動に不自然さを感じた。もし本当に浮気だったら許せる問題じゃない。3時半の芽衣のお迎えを放棄して、男とホテルにしけ込んでいる。怒りと不安で俺は気が動転した。
俺はある程度の逢瀬の日を特定しようとした。探偵を雇うためだ。
「早紀、大変だね。ママに仕事に両立してエライね」
「そんなこと無いよぉ。でもお義母さんが芽衣のお迎えに行ってくれるんでホント助かるよ」
と携帯ばかりイジっている事にもやっと気が付いた。
「また今週はそんな日ばかりなの?」
「たぶん水曜日と金曜日が帰れなくなると思う。そんな時は早めにお義母さんに連絡するから大丈夫よ」
「そうか。早めに言ってやってね」
「うん」
早速あくる日には探偵社を訪ねた。
結果は見事に的中だった。2日以上の証拠が必要らしい。その2日分の証拠を2回の調査で押えた。探偵の証拠写真の精度に感心しつつも、俺はその晩以降、食事が喉に通らなかった。吐く物が無いのに吐き気が襲う。隣で寝ている女が得体の知れない物に見えて殺意すら覚えた。
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