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俺は弁護士を通して相手の男に内容証明を送ることにした。男は佐野と言った。早紀のいる部署の課長だそうだ。俺よりも3つ年上。妻子持ち。
慰謝料も無理だとは思うが莫大な額を吹っかけてやった。そうさ、これは俺の復讐だからだ。ちょっといい考えがあったんだ。しかし今思うと、この俺の考えが早紀の人生を木っ端微塵に破壊したことを後悔している。これが正解だったのか、その答えは正直言って分からない。もう遅いが、今もそのことだけが胸を締め付けるんだ。
佐野への内容証明は会社に送ってやった。それが届いた日、家に帰ると早紀が青ざめた顔で食卓に座っていた。
佐野は上司に呼ばれて叱責を受け、早紀に別れを告げるしかない状況に追い込んでやった。そこへ莫大な慰謝料の請求だ。
「ただいま」
「あ、おかえり・・・」
「どうしたの? 何かあった?」
「え・・・?」
あの時の早紀の何とも言えない表情は今も覚えている。
早紀は突然土下座をした。
「申し訳ございませんでした! 何も言い訳はしません!」
と言うと泣き崩れた。
俺は泣いてすがるのかと思っていたが、それが無いことに拍子抜けした。そう、早紀は佐野と別れる気が無かったのだ。この後に及んで、俺の方に別れを望んでいるのだった。そのくらい早紀は狂っていた。
この時、俺は決心した。
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