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「早紀、良介さんが来てくれたよ・・・。ちゃんと謝りなさい」
「いいんですよ、もう」
遺影の中で微笑む早紀。それは唯一持っていた家族写真のものだった。あの思い出のディズニーランド。おれは写真でさえ渡さなかった。家族を捨てた人間に写真が必要あるのかと、あの時は思ったんだ。
「お線香を上げさせて下さい」
「ありがとうございます。そんな立場じゃ無いのに・・・」
赤い真新しいランドセルと手製の運動靴入れが並んで置いてあった。
お義母さんからその後の早紀の生活を聞いた。
それは俺が思っていた以上に凄惨な暮らしだった。俺の復讐は比類なきまでに完遂したのか。これで良かったのか。未だ俺には分からない。
佐野と結婚した早紀はその後も仕事を続けた。もちろん佐野もそのまま職場に留まった。しかし噂は既に社内を駆け回っていた。居辛くなった佐野は逃げるようにして退社。早紀は佐野の仕事が見つかるまで我慢したようだが、佐野にその気が無いのを知って程なく退社した。
それから佐野は早紀に当たりに当たった。40手前の佐野に就職口も見つからずフリーターで生活を続けるも、それさえ続かず自棄を起こしては早紀に暴力を振るった。一度あばらと手首を骨折して入院をしたことがあったそうだ。その時でさえ佐野は一度も見舞に来なかったという。
早紀が入院している間、佐野には既に別の女がいた。退院した早紀はその後佐野が紹介するスナックなどで働かされていたが、それは佐野の飲み代の借金を返すためにその店で働かされていただけだった。おまけに佐野の女はその店の女だったという。
佐野と転がり込んだ女を扶養するような立場になってしまった早紀。虐待を受けながら、ついには風俗店に飛ばされた。エンドレスのような佐野の作る借金を返し続ける早紀は次第に身体に変調を来たすようになっていった。それでも借金を返し終わると早紀は風俗店を脱出して実家に逃げて来た。しばらくは店や佐野からの嫌がらせに遭ったが、警察に事情を話し警護をしてもらい連中も来なくなったという。
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