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それからようやく早紀に平穏な日々が訪れた。近所のスーパーでパートをしながら安いアパートに独りで暮らした。一緒に住むように説得するも頑なに拒んだという。「私にその資格は無い」と。
早紀らしいと思った。
「良介さん、これを」
お義母さんが渡したのは日記帳だった。
「渡せて良かった・・・」
お義母さんは涙ぐんだ。
そこには俺と芽衣のことが日々書き連ねてあったんだ。
誕生日やクリスマスなどのイベントごとに想いを記してあった。
『芽衣ちゃん、もうすぐ一年生だね。どんな立派な子になったのか、可愛い芽衣ちゃんの姿が目に浮かびます。お母さんもお祝いしてあげたいけど、行けなくてごめんね。ランドセルはお母さんが買ってあげるからね。それを背負って芽衣ちゃんが元気よく通学してくれると思うだけで、お母さんは幸せです。あと運動靴を入れる手さげバッグも作っているからね。芽衣ちゃんは何色が好きなんだろう。ピンクだけど気に入ってくれるといいな』
「あ・・・」
俺はここに置かれているランドセルとバッグを見た。
「及川の家に持って行ったらしいけど、お義母さんに断られたみたいだよ。当然だよ。今更母親づらして来られたって困るよねぇ・・・」
涙が止まらないお義母さん。
俺もいたたまれない気持ちになった。
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