72人が本棚に入れています
本棚に追加
顛 落(てんらく)
あれからどれくらいの年月が過ぎたのだろうか。
俺は否応なしに思い出される記憶をまた辿ることになっている。
「何、母さん」
『良介、根岸の家から電話があったんだよ』
「え? 何の用で?」
『それが・・・』
俺が結婚をしたのは28歳の時。
妻は早紀。26歳。
恋愛結婚だった。一途で真直ぐなところに惹かれたんだ。細身で壊れそうな身体を守ってやりたくなる。そんな女だった。
だけど意思は強くて、これと決めたことは頑なに譲らない性格で、そんなところも好きだった。真面目だった。うん、真面目なんだよ。
2年後には長女芽衣が生まれた。
嬉しかったね。俺が父親になるなんて不思議な気持ちだったよ。
芽衣が幼稚園の年小さんになった時、家族3人で行ったディズニーランド。あの時の芽衣の喜びようといったら無かったな。早紀も幸せの絶頂だっただろうな。今でもあの時の会話を思い出せる。
最初のコメントを投稿しよう!