東京ノスタルジア

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 満身創痍でお嬢と別れ、駅前の飲み屋に立ち寄る。  細長い通路に席がひしめいて並んでいて、変色したテーブルや床、味のある椅子たちは、この店がだいぶ古い建物を利用していることを連想させた。だが掃除が行き届いて、清潔感がある。非常に居心地がよかった。席に座って雰囲気をかみしめていると、店員が飲み物はどうするかと聞いてきたので、生ビールと焼うどんを注文する。一緒についてきたみそ汁は、慣れない味がした。味噌も出汁も、私の生活圏で親しんでいるものとは違うのだろう。  焼うどんもビールも文句なしでうまかったのだが、自分の胃が小さくなってしまったことと、今頃になって親知らずが暴れ始めたことに顔をしかめてみる。だが、ここにいるのはひとり。孤独とはひとりを楽しむことだと聞いたことがある。ゆっくり店の味というものを楽しんでいれば、不満なんて気にならない。後ろの席では、会社帰りのサラリーマンだろうか、どこの国の女が一番エロいかという下世話な話で盛り上がっていた。両隣では中年の男女がほろりほろ酔い言葉を交わし、その向こうでは若い女性がひとりしっぽり飲んでいる。にぎわっているというわけではないが、逆にそこがグッとくる。嗚呼、これでこそ大衆居酒屋。ありがとう鶯谷の飲み屋。
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