第一話 AyaとKouのアリア

2/6
前へ
/263ページ
次へ
 Ayaが肩でバイオリンを支えたまま、すっと視線をKouにやる。  Kouは、瞳はアンバーで、髪も明るい茶でゆるいウェーブの襟足よりも長く伸ばしている。  鼻筋がすっと通っており、目元は涼やかだ。  仕事の時は、和服は着ない。  今日は、ブラックジーンズにワイシャツのシンプルなスタイルだ。 「大人しく目立たないだけだとKouは認めるけれども、私とさほど年が離れていないはずなのに、やけに大人っぽいわ」  独奏は美しく盛りを得ていた。 「俺、もう三十路なんだ」 「冗句がお上手。二十二歳だってパスポートに書いてあったわよ」  Kouは、困った時に眉間にしわをフレンチブルドッグのようにする。 「Aya、女性の年齢を訊かれたくないだろう。黙っておくものだよ。外は雨だ。静寂の中聴かせて欲しい」  Ayaは、涼しい顔で、Kouの喉元を眼光で撫でた。 「よしなさいね」  手厳しいKouに、いちいち負けていられない。 「これは、リュウ・アサヒナからのオファーだ」  ◇◇◇   七月十日の日曜日、世界的バイオリニストのリュウ・アサヒナからの依頼を情報屋、Kouが受けていた。  誰もいない高層ビルのエレベーターが地上四十二階で止まる。     
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加