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Ayaが肩でバイオリンを支えたまま、すっと視線をKouにやる。
Kouは、瞳はアンバーで、髪も明るい茶でゆるいウェーブの襟足よりも長く伸ばしている。
鼻筋がすっと通っており、目元は涼やかだ。
仕事の時は、和服は着ない。
今日は、ブラックジーンズにワイシャツのシンプルなスタイルだ。
「大人しく目立たないだけだとKouは認めるけれども、私とさほど年が離れていないはずなのに、やけに大人っぽいわ」
独奏は美しく盛りを得ていた。
「俺、もう三十路なんだ」
「冗句がお上手。二十二歳だってパスポートに書いてあったわよ」
Kouは、困った時に眉間にしわをフレンチブルドッグのようにする。
「Aya、女性の年齢を訊かれたくないだろう。黙っておくものだよ。外は雨だ。静寂の中聴かせて欲しい」
Ayaは、涼しい顔で、Kouの喉元を眼光で撫でた。
「よしなさいね」
手厳しいKouに、いちいち負けていられない。
「これは、リュウ・アサヒナからのオファーだ」
◇◇◇
七月十日の日曜日、世界的バイオリニストのリュウ・アサヒナからの依頼を情報屋、Kouが受けていた。
誰もいない高層ビルのエレベーターが地上四十二階で止まる。
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