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背筋の伸びた朝比奈竜が既にたった一人で乗っていた。
一人の背広を着た男性が乗り込み、ドアが閉まって階下へ動き出すのを見計らって、口を開いた。
「私が、Kouですが」
「おお! 貴方が! 慣れないことで緊張していました。私のバイオリン達を守って欲しい。家の鍵や書斎の裏にある隠し部屋も開放しよう。報酬は、前渡しで。言い値で構わない」
Kouは、すました顔で相手の弱みを探っていた。
「分かった。次の階で別れよう。朝比奈竜様は地上三階で降り、そのまま喫茶店に入ってください」
Kouは、報酬と鍵を受け取り、足音もたてずに地下駐車場で消えた。
情報屋、Kouは、仕事仲間、コードネームAyaにコンタクトを取る。
それは、インターネットやスマートフォンなどを使わない。
「日本は、蓮の花盛りだわ。ああ、小さな子は、朝顔なども育てているのでしょうね」
Ayaは、上野の界隈を時折佇みながら歩いていた。
しばらくして、花を潤すにわか雨が降り出した。
近くのパンダぬいぐるみ店の軒下を借りた。
「ふう……。七月も冷えるのね」
体を震わせて縮こまり、ぐっと体に力を入れて寒さを忘れた。
気が付けば、隣にも軒下で雨宿りする者がいた。
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