0:00/ミュージック・クローバー

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「……ピ。……ピ。……ピ。ポ――――ン」  ――――――――――――――――コンソールをスイッチし番組OPのジングルを流す。 「――コンバンワ―!FMラジオ局セブンブリッジがお届けする、音楽番組『ミュージック・クローバー』の時間。DJを務めるのはわたくし、バンビ――今夜も一時間よろしく!」  ――――――――――――――――スライドボリュームを操作しOPの音量を下げる。 「現在、12月15日深夜零時を回ったところ……雨は降っていないけど早朝にかけて雪が降りそうな天気だね。ベルリン気象観測所の発表によると今晩はこの冬一番の冷え込みらしいよ。1979年も残り二週間。ホットな曲を聴いて暖かくしていこうねッ。それじゃーまず今晩、最初のリクエスト……!」  ――――――――――――――――リクエストコーナー用のジングルを流す。 「リクエストのお便りは北区にお住まいの……えーと、ハンス・バールさん。PN・ポリポリピック……匿名希望の方だね――『バンビさんこんばんわ。いつもこの番組を彼女と聴いてます』どーもー『前回、僕がリクエストした曲が流れましたが、あれ完全に別のバンドの曲です。ジャンルすら違いました。あの曲は彼女と一緒に聞く約束していたんです。昨日は変な曲かけてくれたせいでムード台無しでした。ローカル局だからと言っていい加減な仕事しないでください』……『今夜、ムードが悪くなったら本当にフラれそうです。プロ意識をもってお願いします』……うん。オーケー。それじゃあ番組最初のナンバー、ポリポリピックさんからのリクエストで曲は……えーと――スティングレイテールで『コール・オブ・ザ・ムーン』!」  ――――――――――――――――パーソナリティーにインカムで伝える。「――いやっ!ないよ!置いてないそんなレコード……ッ!」  粗末な木箱に並んでいる色あせた四、五十枚ほどのレコード盤たちへ視線を向ける。  もちろん確認するまでもなくそんな名前の曲が入ったレコード盤は置いていない。  私はインカムで本番中のパーソナリティーの少女に機材の不備を伝える。  ガラス窓を隔てて向かい合う少女は事態を理解しようと、数瞬、ハエを呑みこんだ蛙のように口をもごもごさせて思案した後、非難めいた顔でこちらをねめつけてきた。  
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