寂滅

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 スルガトは、迫害されていた。  彼女が生まれ育ったのは小さな村。  両親と2人の姉に囲まれた5人家族の末っ子として生まれた彼女は、信仰心が強かった。  毎日欠かさず神に祈りを捧げ、ついには、神の声が聴こえるようになったという。  しかし、神の声を聞いたときには、スルガトは純潔ではなかった。  そのため、村の者たちはスルガトの言葉を信じず、ましてや純潔を失ってから聞こえた言葉など悪魔の言葉と罵られ、村から追い出されてしまった。  それでもスルガトは、神を信じた。  別の村で生活をすることになったスルガトは、頭が良かったため薬草などの知識を与えた。  だが、その知識があまりに進んだものだったため、村の人々はスルガトを恐れ、子供たちはスルガトが魔女だと言い始め、断罪。  「私は神のお告げを聞いたのよ!!私こそ、神の子よ!!」  何度叫んでも、その言葉が聞き入れられることはなかった。  スルガトはそのまま拘束されてしまい、村にある教会の地下へと投獄された。  投獄されてからも、スルガトはずっと自らの罪を罪とは認めず、神からの思し召しなのだと叫んでいた。  しかし誰もその言葉を信じなかったため、スルガトに出来ることはただひとつしかない。  それは、神に祈ること。  「ここは・・・?」  ふと意識が戻ると、薄暗い川の上にいた。  船と呼ぶには違和感のある風貌と、乗り心地だが、決して悪いわけではない。  船を漕いでいるのは一人の・・・男?  体格からして男だろうが、横顔は赤いローブと仮面によって見えないため、断言はできない。  ふと、こちらを見た。  「もしかして、ここがアケロン川?」  「おや、アケロン川をご存知ですか。しかし、ここはアケロン川とは少し違う航路の川になります」  「あなた、カロンを知っているの?」  「存じております」  「私、死んだのかしら。だとしたら、神のもとへ行けるのかしら」  自分がいるべき世界であんな扱いをされるというなら、きっと自分のことを理解してくれるのは最早神のみだろうと、スルガトは思っていた。  純潔でなかったといっても、それは教会にいた神父に「神とひとつになるためだ」と言われて行った行為なのだ。
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