寂滅

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目の前にいる神に手を伸ばしたスルガトだが、急に強い風が吹き荒れ始め、神の身体を丁度包むくらいの台風が発生した。  その台風の中から出て来た神は、神ではなく、さきほどまでそこにいた左目の下に模様がある男だった。  口の中に小さく見える牙が、今となっては恨めしい。  「ハハハハハハ!!!!これでこの人間はあの世逝きだぁ!!!愉快愉快!!!」  一人静は、何も言わずにいた。  スルガトもイベリスも、自分の思う様に運命が動いたのだと、歓喜に満ちているようだ。  高らかに笑い、幸福そうに目を閉じる。  「主よ・・・。今すぐあなたのもとへ行きます。待っててください」  スルガトの言葉に、イベリスは首を傾げる。  「はあ?お前、自分が本当に神に選ばれたとでも思ってんのか?」  「そうよ。私は神の声を聞いたんだもの。私があの村から追い出されたのも、神に会うこの時のためだったのよ!」  神の声を聞いたのは自分だけで、神を信じ続けたのも自分だけ。  これほどに神を愛した人間など、自分以外にいるはずがないと、スルガトは自分を疑わなかった。  そんなスルガトを、イベリスはだるそうに首を傾けながら見ている。  「めでてぇ人間だな。何があっても無理だろうよ」  たったついさっき、神のもとへ連れて行くと言っていた男が、掌を返したように言い放ったその言葉に、スルガトは耳を疑う。  イベリスは平然としながら、笑う。  「へ?だって、会わせてくれるって言ったじゃない!!神のために生きて来たから、神のために死んでも良いと思っていたのよ!」  喉から血が出るのではないかと思うくらいの声量で叫ぶスルガトだが、イベリスは滑稽だと笑う。  その笑い声は、きっと聞く人によってはあまりに無邪気な子供のようで、聞く人によっては残酷な悪魔のようだ。  ふと、イベリスが尋ねる。  「お前、自分の名前分かってるよな?」  「名前・・・?」  「こりゃたまげた。神に御執心だったばっかりに、他のことにはとんと無垢か。まあ、安心しなよ。天国に逝けりゃあ、神に会えるかもしれねぇし?けど、そもそもお前の聞いた声っていうのも、神のものかは定かじゃねえよな?悪魔の声を聞いてただけかも」  「嘘・・・嘘よ!!!私は、私が聞いたのは神の声で・・・!!私にお告げを・・・祈ってたから・・・ずっと・・・私が・・・神だけを・・・!!」
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