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スルガトのそんな声を聞かずに、イベリスは一人静の方を見て笑いながら言う。
「じゃあ、文句はねえよな?こっちのモン食ったんだし。預かるぜ?一人静さんよぉ」
すでに戻ることは赦されない身体になってしまったスルガトは、一人静に道を示されることなどないのだ。
イベリスの企みを知っていた一人静だが、その行為を止めることも出来なかったため、ため息を吐いて諦めを見せる。
「・・・・・・致し方ありませんね」
一人静は、持っていたオールを川に戻す。
嗚咽交じりに泣き乱れるスルガトは、今になって一人静に助けを乞うように手を伸ばすが、もうその手を掴むことは出来なかった。
何も口にしていなければ、しっかりと掴めたはずのその腕は、まるで透き通るようにしてすりぬける。
愕然とするスルガトなどお構いなしに、イベリスは事務的に動く。
「さっさと終わらせねえと」
イベリスに連れて行かれたスルガトは、その後カロンへと引き渡され、カロンの船に乗ったスルガトは川を渡って向こう岸へと渡るのだ。
それを見送ることもないまま、イベリスはスルガトをカロンに引き渡してすぐ、カロンにサインをもらってすぐ何処かへと去って行ったようだ。
スルガトがイベリスに連れて行かれてから少しすると、遠くの方で雨が降っているのが見えた。
それでも、もう何も出来ない一人静は、ただその雨が少しでも早く止むようにと、眺めるのだ。
「情けないですね・・・」
川の上にいた一人静のもとには蝶が飛んできて、オールに止まる。
一人静はとても久しぶりに向こう岸へと向かってみると、咲いている曼珠紗華に蝶が止まり蜜を吸うと、その曼珠紗華は枯れてしまった。
それを見て、思わず呟く。
「やはり、息ぐるしいところですね」
一人静はすぐに朝凪に乗りこみ、そこから一秒でも早く遠ざかりたくて、オールを思い切り漕ぐ。
川を横断していると、複数の蓮が流れてきて、その蓮ひとつひとつが、迷子のようにあちこちへと動きまわっている。
「迷い導かれる先は、一体どこなんでしょうね」
無事にスルガトをあの世へ連れて行くことが出来たイベリスは、死神のもとへと向かっていた。
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