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「あれ?」
そこは、川の上だった。
「ここが、あの世なのかな・・・」
「残念ですが、まだあの世ではございません。少なくとも、まだあなたは亡くなっておりませんので」
そう春菜に言葉をかけたのは、赤いローブを身に纏った、声からして男だ。
「あの」
声をかけたそのとき、船の先の方が動いて、川の中にいる何かを口に入れた。
飛んでいる虫をぺろりと食べたのは、その船に巻きついている植物だろうが、なんとも不思議な乗り物だ。
だがなんでだろうか、母体に包まれているような感覚を思い出す。
「どうかなさいましたか」
春菜が何か言おうとしていたことに気付いていたのか、一人静が聞いてきた。
「いえ、あの、なんだかここは、落ち着きますね。静かで、暗くて、誰もいなくて」
「一人がお好きなんですか」
「ええ。昔から。他の人に合わせるのって、なんだか疲れちゃって」
「人それぞれですからね」
「それに、今は本当に、これからどうして良いか分からなくて・・・」
そこまで話したところで、いつもの御一行さまたちが襲ってきた。
「今日もいただこうかな、その獲物!!」
「少し騒がしくなりますが、ご了承ください」
一人静はオールを持ちあげたところで、大きな斧を持った男が飛びかかってきた。
カキン!と高い金属音が響いたかと思うと、斧の方が折れてしまい、オールは無事だったが一人静の顔についていた仮面の紐が切れ、同時に顔から外れた仮面を手でキャッチした。
そのとき、一人静の仮面の下には、目隠しをするようにつけられている黒い布があることに、周りの男たちは気付いた。
当然、イベリスもだ。
「おいおい、まじかよ。あの状態で俺達の相手してたってか?つかなんで目隠ししてんだ?」
イベリスは一気に春菜に近づくと、その指先を春菜に触れることが出来た。
しかし、すぐに目隠しをしたままの一人静に邪魔されてしまったため、空中で一回転をして川に着地する。
「今際のイベリス。ようやく思い出しました」
「お、俺ってば有名人?」
「あの世の岸とは逆の岸にたどり着いた者たちが時折見るという、死者の手招きや誘い。それはイベリス、あなたが幻でそう見せているのだと聞きました」
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