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川の向こうで死んだ人が手を振っていた、などという話をよく聞くかもしれないが、それらはイベリスによるものだ。
もともと、今際という場所に配属されたイベリスは、想いのある人物に成りすますことで、人間の心を揺さぶる仕事をするはずだった。
しかし、何分飽き性なところもあったイベリスは、それがつまらないと感じるようになってしまった。
「そうそう。俺ってすごいんだ。昔からそういう遊びをよくしてたよ」
イベリス曰く、遊びのようだが。
その遊びによって、あの世へと連れて逝かれてしまった人達は数え切れない。
良いこととも悪いこととも思っていない。
ただ、それが面白かったからやっていただけの話。
「また、魂に触れることでその者の心の苦しみや悲しみを見ることが出来る・・・でしたね。それを利用して、あの世へ連れて行こうとすると。なぜ急にその重い腰をあげてこんなことを始めたのかは知りませんが」
「だーかーらー、言ったろ?俺はあんたらの立ち位置に行きたいわけ。そうすればもっと面白いものが見られるって聞いたからさ」
「・・・死神の言葉を鵜呑みにするとは、愚行も良いところですね」
「し、死神・・・!?」
一人静とイベリスの会話を聞いていた春菜は、その単語に驚く。
すると、イベリスはすぐに木の実を手にして、春菜に差し出すように見せて来た。
「これを食べればあんたの望みがかなうよ」
「望み・・・」
「聞いてはいけません」
「あんた、子供が出来なくて悩んでるんだろ?誰も理解してくれないんだろ?これを食べれば、すぐに子供が出来るよ。騙されたと思って食べてみなよ」
「・・・・・・」
最も弱いところに手を差し伸べる。
すると、ただでさえ弱い人間というものは、それに縋ろうとしてしまう。
それは勿論、今ここにこうしている春菜も同じことで。
す、と春菜は手を伸ばしてその実を受け取ろうとするが、手を引いた。
「辛いです。とても」
春菜は、ぽろぽろと泣きだした。
「どれだけ頑張っても子供が出来なくて、同級生や友達はどんどん子供作って行って。置いて行かれるのが嫌で産みたいとかじゃなくて、ただ・・・」
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