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毎日毎日、こんな気持ちのまま生きて行くのが辛いのだと、春菜は告げた。
羨ましい想いは徐々に妬みへと変わって行き、自分がどんどん嫌な人間になっていく気がしてしまう。
子供が生まれることは奇跡としかいいようがないのに、すぐ出来ることが当然だと思っている人もいることだろう。
男には理解しにくい感情かもしれないが、子供が産めないのならば、女になんか産まれてくるんじゃなかったと思うくらい、それは当事者にとっては辛い現実。
ましてや、それを一人で抱え込むことがどれだけ辛いかなど、本人にしか分からないことだ。
そこには、闇が生まれるのもまた必然。
「何人でも産める身体の人が良いけど、私は一生で1人産めるかも分からないの。こんな状態じゃ、悪魔にでも縋って産みたくなるのは当然なのよ!!!」
「じゃあ、これ食うんだな?」
ほら、とイベリスは春菜に木の実を差し出すと、春菜はそれを受け取った。
しかし、まだ口に入れるかどうかは迷っているらしく、その実をじっと見つめていた。
そのとき、ぐら、と船が揺れた。
何事だと思っていると、それはおそらく一人静が船を揺らしたのが原因で、手に持っていた実を思わず川に落としてしまった。
「あ」
その後すぐ聞こえて来たのは、あまりにも悪びれた様子の無い声。
「これは失礼いたしました。お怪我はありませんか」
声の主は、悪いとは思っていないだろうにも関わらず、春菜の安否の確認をしてきた。
色んなことに呆気にとられた春菜は、ただ茫然としながらもなんとか口を開く。
「大丈夫、です」
その様子を見ていたイベリスは、前髪がおりていないところの額を指でかいた。
少し困ったような、でも楽しそうな、何かを発見したような驚きとワクワク感が表情に出ていた。
「そういうことすんのな。この前はしなかったじゃねえか」
この前というのは、つい先日のスルガトのことだとすぐに分かった。
一人静の言葉を聞かずに、イベリスの甘い誘惑に簡単に負けてしまった一人の女性の末路は、忘れようとも忘れられない。
「先日の方は、止める間もなく自ら望んで堕ちてしまいましたので」
しゅるしゅる、と黒い目隠しをしていた布を解きながら、一人静は言う。
先程の攻撃でその黒い布も少し破れてしまったようで、ため息を吐いていた。
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