楚楚

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 また縫わなければと思っているのだろうか、それとも縫わずとも平気だろうかと思ったのか、裏表を数回往復していた。  顔をあげた一人静の目を見ると、イベリスは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。 「私は、あなたがた迷い込んできた者たちを強制的に元の世に戻しているわけではありません。あくまで、その方の心に従っているだけです」 「心・・・?」  春菜からは、一人静の顔はローブが邪魔で良く見えない。  だが、そのまま語りかけてくる。 「ええ。ほんの少しでも生きることを考えている方であれば、戻れるのです。しかし、その欠片さえ見えない方は、幾ら手を差し伸べようとも戻ることは叶いません。それは、本人が知らず知らず決めてしまっていることだからです」 「・・・私は、どうなんでしょうか」 「その答えはもう、あなたが出しているはずです」  自分でその答えを出すことも出来ないと、春菜はあるのかないのか分からないその答えを出そうと必死だ。  一人静の言葉に春菜が俯いていると、イベリスがなんとか春菜を引きずりこもうと囁きをする。 「苦しいんだろ?戻ったところで、また同じ苦しみを味わうだけなんだ。なら、その苦しみを終わらせようや」 「私は・・・」  ぐ、と自分の胸のあたりを掴んでいる春菜を見て、イベリスはその口から出てくる言葉を待ち望む。  春菜の方を見ようとしていなかった一人静だが、黒い布を目に巻きつけようとしたとき、春菜を少しだけ目が合った。  春菜はとても目を丸くしていたが、平然と目元を覆い隠すと、いつの間にか直っていた仮面の紐で顔を隠した。 「人の醜さとは、こういうものです」 「え?」 「私はあなたのような迷い人を、再び天つ日の下へ帰す為、ここにいるのです」 「天つ日・・・」  なぜだか、一人静のその時の声が、とても穏やかに感じた。  その穏やかさの中にある芯というのか、闇というのか、そこに潜む色んな感情も同時に春菜は読みとれた。  だからなのか、帰らねばと思った。  それでも諦めていないイベリスたちは、船を取り囲むようにして襲いかかってきたが、一人静たちによって制圧されていく。  それから少し経ち、船の蛇たちが激しく暴れ始めたため、男たちは撤退を余儀なくされてしまう。  そしてオールに蝶が止まると、自然と男達だけでなくイベリスも船から離れ、悔しそうにしながらも去って行った。
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