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懸命に言葉を続くるものの、そんな良大とは対照的に少女の返答はあまりにも素っ気なく、味気ないものであった。
もしかすると、良大の話に全く興味がないのかとさえ思わせる程にツンと冷たい態度をみせる。
「あ、あの…」
会話をどうにか繋げる為、良大は必死に言葉を模索し続けるが、結局のところ気の利いた台詞が思い浮かぶはずもなく、そればかりか、少女の醸し出すその独特の雰囲気に飲まれてしまい、緊張感だけが高まる一方であった。
「用がないんじゃったら、うちはこれで…」
そうこうしている内に、少女はこの場を後しようと足を一歩前へ踏み出す。
そして、すれ違い様にペスの頭をそっと二度、三度と撫でると、そのまま電車道へ躍り出て、良大が来た方角とは反対の土橋の方へ向かって歩き始めた。
去り際、少女の甘い残り香が、良大の鼻先をくすぐるように優しく撫でる
白昼夢か何かのような一時の出来事に、良大はただ呆然としていたが、すぐ様後を追って電車道へ飛び出す。
しかし、少女はすでに数十mも先を歩いていた。
その姿は、初夏の暑さの中で陽炎に揺られ何とも幻想的で不思議な美しさとなって良大の瞳に焼き付く。
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