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レイクピアの中心にある広大な湖は「天照らす鏡」と呼ばれ、山脈の向こうから昇ってきた陽の光を反射してまるで宝石を鏤めたかのように妖しく輝き湖に訪れた者を魅了する。
湖周辺に住む人々はこの湖を水源としている為、数多くの民族や部族がこの場所に水を補給に来たり泳ぎに来たりしている。
もちろんこの湖を自分達の領域にしている者は居ないのでこの場所では異民族、異部族同士の軽いいざこざがあったとしても争いにまで発展することは決して無い。
この日もたくさんの部族や民族達が訪れ、天照らす鏡は賑わっていた。
水辺で昼寝をする者、その横で追いかけっこをする子供達、喉を潤したり水汲みをする者、水の中に入り遊ぶ者や泳ぐ者。それぞれが幸せそうな笑みを浮かべ、今この瞬間、この楽園で生きている事に心の底から喜びを抱いているようだ。
しかし、突然人々の顔から笑みが消えた。
全員が全員、子供達までもが天使の息吹の様に優しい気と悪魔の視線の様に禍々しい気を併せ持つ何かの存在を間近に感じたからだった。
「異形の者が来た…」
「父ちゃん…何なのあの気は…今まで感じた事が無……。オイラ怖いよ…」
「あれが…陰と陽の狭間で生きる者…」
「相変わらず両極端な気を放つのね、気持ち悪い…」
忌み嫌う相手に見せる様な「負」の籠った視線がある一点に注がれる。
人々の眼に映りこんだのは、山から降り湖へと歩き近づいて来る白い肌に黒い呪印が刻まれた異形の者の姿だった。
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