楽園

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 両肩から生えているアレは…まさか翼?  翼を持つ……悪魔? 悪魔がレイクピアにやって来ただと? イヤ、俺が只々そう思い込んでいるだけで人間の可能性もあるのだが、翼を持つ人間など存在するのか?   ……可能性はあるか。  異形と呼ばれる俺自身が良い例なのだからな!  若干落ち着きを取り戻した彼は右手で印を結び始めた。 「悪魔だろうが人間だろうがどうでも良い。オマエは俺が住む領域に侵入した。……排除してやるよ」  翼の悪魔を鋭く見据え 「仙法術・変化術(へんげじゅつ)形状変幻(けいじょうへんげん)!」  左手に持つ竹棒に、印を結んだ後の右の掌を向け術を唱えた。  その刹那、彼の持つ竹棒は空に浮かぶ翼の悪魔の眉間を狙い眼にも止まらぬ速さで伸びていった。 「!!」  自分の命を狙うかの様に襲い掛かって来たその危険な棒を悪魔は間一髪で避ける。  そしてこの攻撃で異形な彼が「何か勘違いをしている」と悟った翼の悪魔も全身に冷汗をかきながら彼を見下ろした。 「おいおい、僕は争うつもりで来た訳じゃないんだけどな……ってそもそも空を飛んでるからもはやキミの領域から離れてるじゃないか…。はぁ、こうなってしまっては仕方がない。色々な事情を知らずにキミの居場所に来てしまった僕も悪いからね。誤解を解く為にも軽くお手合わせ願いますか」  悪魔は異形の彼に聞こえるか聞こえないか程の小さな声で呟いた後、翼を大きく広げ両の手で印を結び始め何かを呟いた。 「翼生成術(つばさせいせいじゅつ)刺茂(とげしげ)射薔薇(いばら)(つばさ)」  その言葉を悪魔が小さく発すると、悪魔の背中に生えている漆黒の翼の真下が眼の眩む程の光で輝き始めた。  余りの眩しさに異形の彼は眼を閉じ、その「両目を開き続ける事を保つ事が出来ない程の輝き」から身を護るかの様に両腕で眼を覆った。  3秒前後程の短い時間が過ぎた後、ゆっくりとそして静かに眼を開き  悪魔が居る方向へと眼を向けた。  彼の眼に映り込んだもの、それは眩い光が次第に消えて行くと同時に、今まで光で覆われていた場所にいつの間にか生えていた鮮やかな緑と紅の翼だった。
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