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「グランマ! 終の住処って、ここがそうだろ?」
怒ったような兄がダンと片足で床を踏み鳴らし、人差し指で床を指した。兄は時々こんな風に賢くなる。その通りだ! グランマの家はここ以外ない。
「大河ちゃんたら……なんて良い子なの」
兄の言葉に、涙もろい八重さんがウルウルと瞳を潤ませる。
「だから、何度も言わせないでおくれ。私は一度、お一人様生活ってのがしたいだけ。そりゃあ、本当に素晴らしいとこなら考えなくもないが……全く心配ない。ノープロブレムだよ」
グランマも兄の言葉に感動しているようだが、そんな素振りを一切見せないのがグランマだ。そう言うとまた紅茶を飲み始めた。
「お一人様生活……いいわねぇ。私も後学のために一緒に申し込もうかしら?」
母の言葉に父がギョッとする。
「真理亜ちゃん、僕が嫌いになったのかい?」
「やだ! 友和さんを嫌いになんてなれないわ。こんなに愛しているのに」
――始まった。これが始まると当分、二人は二人だけの世界の住人になる。
両親の恋愛劇場から目を逸らした兄も、溜息を一つ零すと仕事に戻った。
何となく話が有耶無耶になり、私はパンフレットに目を向け思う。本当に本気でここに行くのだろうかと。
何を隠そう、これは霊が依頼した案件だった。グランマはその霊の『なぜ』にいたく心引かれたらしい。長い時間その霊と話し込んでいた。
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