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家族の中でグランマは女帝だが、基本、家族のやることに口出ししない主義だ。
『己の行動は己の責任で行え。そして、どのような結果を招いても自己責任で対処すべし!』
グランマの口癖だ。放任主義にも思える言葉だが、個々を信頼しての言葉だと思う。なぜなら、対処できない事柄にはちゃんと知恵も手も貸してくれるからだ。
今回の兄のように。
「私もそう思う。兄さんって小さい頃からヒーロー好きだったもの」
「確かにな。メチャ好きだった。オニオンマン……」
遥か遠く幼い頃に思いを馳せるように兄が天井を見つめる。
オニオンマンというのは、野菜の国のヒーローだ。
子どたちに嫌われているにもかかわらず、玉葱の良さをアピールしつつ、悪という名の病原菌をばら撒く悪い科学者を懲らしめる、パターン化されたアニメの主人公なのだが……。
兄は中学目前まで本気でオニオンマンになると言っていた。それほどオニオンマンに陶酔していたのだ。
それが突然『医者になる』になった。おそらく幸之助さんの影響だろう。
父はオニオンマンより現実的な将来だと喜んだが、動機まで聞かなかった。聞いていたら二浪もさせなかっただろう。
「オニオンマンかぁ」
繰り返すように呟く兄に、「片付け終わった? お風呂入っちゃって」と母ののんびりとした声が届く。
父がうんうん頷きながら、「風子も早く寝なさい」と言う。
ああ、と思う。これから夫婦水入らず、イチャイチャタイムなんだと悟ったからだ。
本当……我が家は平和だ。
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