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父の友和は大学の臨時講師を時々熟すノンフィクション作家だ。婿養子だからマナの力はない。それどころか木須の女性がマナの力を持つことさえ知らない。
まぁ、知ったところで、現実主義者の父がそれを信じるとは思わない。
父同様、兄の大河にもその力はない。我が家の場合、マナの力を受け継ぐのは女性だけのようだ。
でも、兄は父と違ってマナの存在は知っている。だが、心底信じている風には見えない。
ちなみに、なぜ『我が家の場合』と限定したかというと、八重さんの孫である幸之助さんにはその力があるからだ。
そう、八重さんの西賀家もまた、朝廷巫系巫女を先祖に持つ家系なのだ。
両家はお隣同士にあり、面白いことにシンメトリーな外観をしている。しかし、それは屋敷だけの話で、中に住む人間は全然似ていない。
特に、兄と幸之助さんは同級生にもかかわらず天と地ほど違う。容姿は系統こそ違えど、どっこいどっこいのイケメンだと思うが――。
兄は医大に二年続けて落ちた予備校生だが、幸之助さんは医大の中でも超難関と言われる大学にストレートで受かった秀才……いや、天才だ。
余談だが、私は幼い頃から幸之助さんに絶賛片想い中だ。でも、当の幸之助さんは私を妹……いや、ペットぐらいにしか思っていない。それが何とも哀しい。
――そんな訳で、兄が家を出たいと言い出した時、父は『また馬鹿なことを』と相手にしなかったのだが……最近になってグランマが『いいんじゃない。世の冷たい風に当たるのも己のため』と許した。
木須家を影で操る女帝の言葉には誰も逆らえない。
結局 、父も折れ、兄は二十歳の誕生日に晴れて独立を許されたのだ。
しかし、予備校生がどうして独立する必要がある? 兄の思惑などお見通しだ。おそらく好きな彼女でもできたのだろう。そんな浮かれ調子では来年も合格は無理だと思う。
――だが、決定は決定だ。我が家は来春、益々無駄に広い屋敷と化すのだ。
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