プロローグ

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なのに……お茶会会場には満員御礼になるほどお客様が(つど)っているらしく、「狭いから増築しようかしら」とグランマがすっ惚けたことを述べている。 ――だが、部屋を見渡しても、私に見えるのはヨーロッパのアンティークで設えられた優雅な内装と、グランマ二人が今日のお茶菓子である“萬月堂(まんげつどう)のウサギ饅頭”を手に談笑している姿と、愛しき君が猫脚のカウチで魅惑的な唇を湯呑みに口付けている姿だけだ。 しかし、それは私が見ている世界であって、グランマたちが視ている世界ではない。 幸之助さんにはグランマの世界が視えているのだろう。時々、二人に釣られるように口角を上げたり頷いたりしている。その姿、何気ないのに……やっぱりカッコイイ! グランマはこんな私の気持ちに気付いているのだろう。お茶会はいつも彼の休日に合わせて開催される。私を絶対に参加させるためにだ。本当、策士だと思う。 だが、なぜ視えない私をお茶会に呼ぶのか? これにはちゃんと訳がある。それは……グランマたちがシャーロックで、私と幸之助さんがワトソンだからだ。要するに、私たち孫は祖母たちの助手ということだ。 私の参加目的は当然幸之助さんだが、幸之助さんは私のような不埒な思いからではない。 シャーロック気取りのグランマたちが、探偵まがいに余計なことに首を突っ込み、危険を顧みず『なぜ』を解き明かそうとするのを心配してだ。 何たって、依頼人は言わずと知れた霊たちなのだから、幸之助さんが心配するのも無理ない。 グランマの開くお茶会は、霊たちが現世に思いを残さず幽世に行けるように、霊が抱える『なぜ』を吐き出させる場なのだ。 『しめやかな霊たちと会する幽雅なお茶会』とグランマは呼んでいるが、お茶会だけで済まないのがグランマのお茶会だった。
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