私たちの日常

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徒がやりとげてる道なんです。こんなことで倒れるとは思わなかったんですよぉ」  日焼けしていて筋肉質で、体も目もサヨリのように細い。だがハコフグのような立派なえらが張っている。そんな神経質で硬そうな人物の口から発せられているとは思えないほど、間も気も抜けた体育教師の声は、コイの餌の麩くらい軽くて責任も何もなかった。だがその残酷な台詞は円の胸をいとも簡単に食い破った。 「こんなことで?娘の特性を、入学前からさんざんお話しましたよね!娘は普通の人より音に敏感だということを配慮してくれるという言葉は、嘘だったんですか!」  体育教師と父親、円が向かい合うダイニングテーブルが、父親の怒鳴り声にぐらぐら揺れる。買ってまだ年数が経っていないこのテーブルの脚が曲がっていて不安定なのは、母親の咀嚼音や、母が肉をナイフで切る時不必要に皿を擦る音が不快すぎて、円が食事を中断した時、怒り狂った母親がテーブルをひっくり返したからだ。 「でもね、聴覚障害?じゃない生徒だって、多少徒競走のピストルや応援の声がうるさくても、頑張って練習はやってるんですよ。
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