私たちの日常

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おさらばできるのだろうか。だけど残念ながらあの世にも、円を理解してくれる人なんていない。生きても死んでも理解者がいない自分なんて、生きる価値も死ぬ価値もない。あ、だけど会ったことのない叔母さんなら、歓迎してくれるかな?でも、今ここで死んだら、糞みたいな同級生と猛毒の母が喜ぶだけだ。 -不要な音は気にならないよう無意識にフィルターアウトすること。全ての音を必要以上に拡大して聴覚処理野に届けないこと。普通の人には当たり前に備わっている脳の機能が、円には生まれつきなかった。それがまともなら、17年間生き地獄みたいな人生じゃなかったのに、どうして。よほど前世で悪いことをしたんだろうか。涙がこぼれそうになったが、泣いてもどうにもならないから、両腕に爪を立てて耐えた。まもなく引っ掻いた跡が蚯蚓腫れで痛痒くなるだろうから、部屋にある痒み止めを塗らなければ―そうして顔を上げたその時、廊下に仁王立ちした鬼の形相の母と目が合った。恐怖が全身を駆け巡るより先に次の瞬間、びちゃん!と生の鶏肉を思いきりまな板に叩きつけたような音とともに、左頬を腫らした円はものも言えずに廊下に倒れこんだ。 「バカじゃないの。運動会
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